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株式会社スクリエ

代表取締役(2021年4月〜) 岡本 孝博

都市と地方の医療格差に挑む、京大発スタートアップ。歯科口腔外科医から起業家に転身する理由とは

なんとなく億劫になりがちな歯科への通院。だけど、手遅れになる前に受診しなければなりません。もし、簡単に自分の口の中を撮影できて、データを送るだけでどんな治療になるのかを判断してもらえるサービスがあれば便利ですよね?今まさにそのサービスを開発中なのが、京都大学発のスタートアップである株式会社スクリエです。歯科口腔外科医でありながら、誰もが楽しく美味しく食べられるようになる未来のため、健康を口腔イノベーションから繋ぎ、双方向性のあるフェアな医療を提案するために起業の道を選んだ代表の岡本さんに、開発中のプロダクトや起業前後の思いについて伺いました。

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歯科を受診する必要性の判断に役立つ、口腔内撮影用ミラーを開発中

 事業内容について教えてください。

岡本 サービス化はこれからですが、歯科口腔外科医としてのキャリアを活かして、使い捨て入れ歯やリハビリ用マウスピース、口腔内の撮影を容易にするミラーなどを開発して特許も取得しました。根底にあるのは、「クリエイティブな事をしたいという思い」と、「田舎でも最先端医療が受けられるような仕組みを作りたいという思い」です。僕は高知県の端っこの方の田舎出身です。四国に親戚が多く住んでいるのですが、救急病院まで車で1時間かかることもあります。インプラント治療をしたくても、対応している病院が近くに無いような地域です。自分は色んな地域で働く中で医療格差を身にしみて感じ、「フェアって何だろう?」と考えるようになりました。

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 現在、注力して開発しているのはどのプロダクトですか。

岡本 健康と口腔をつなぐ「AND mouse」の口腔検診ミラーです。あらかじめ決められた角度のミラーを口腔内に当てることで、誰でもきれいに自分で上あごと下あごをスマホで撮影出来て、さらに2枚法と5枚法という正規の撮影法にも対応しています。かなり綺麗に映るので、このミラーがあればユーザーは家にいながら自分の口腔内の状態を撮影して確認することができます。また、歯科では必ず定点観測のために口腔内写真を撮るのですが、10分程度は要するなど歯科側にとっても結構労力の掛かる作業です。その手間を減らしつつ、さらに患者さんと医療従事者、双方の不意打ちも減らすことができると思っています。例えるなら、ZOOMで話してから会うようなイメージです。

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 なるほど、ミラーはユーザー向けに販売するのですか?

岡本 まずは歯科医師からと考えておりますが、最終的にはサブスクリプションサービスとしてユーザーに提供することを想定します。ただミラーを使ってもらうだけでなく、写真を我々に送ってもらえば、状態を確認した上で「歯科を受診すべき状態か/しなくてもいい状態か」を判断させていただきます。受診が必要な方には歯科を紹介し、歯科側から紹介料を貰うようなモデルを考えています。遠隔診療にチャレンジしようとした歯科はあるものの、画面越しではどうしても見えない場所があったり、着色と虫歯の見分けが付きづらかったりといった問題点がありました。このミラーや私たちが間に入るモデルを作ることで、そういった課題も解決できると思います。

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口腔内のデータが溜まれば、新たなサービス展開の可能性も広がる

 同じく開発中のマウスピースはどんなものですか。

岡本 誤嚥性肺炎のリハビリに寄与するマウスピースを町工場と一緒に開発しています。介護施設も人手不足で細やかなケアに手が回っていない状況があるので、無意識でも口を閉じて舌を動かしてしまうようなマウスピースを作ることで、脳神経障害や認知症を患っている方も容易にリハビリができる状態を作りたいと考えています。また、センシング機器とマウスピースを連動させて、睡眠中の舌や頬の動きのデータも取りたいと思っています。データを溜めて分析をすれば何か傾向が見えてきて、“口から始まる健康”に貢献できる新しいサービスを生むことができるかもしれないからです。

 現在、強化しているのはどんなことですか。

岡本 プロダクトの開発、提携歯科医院やユーザーの獲得、資金調達などやるべきことは山積みです。そこで、事業開発に長けた方を新たにメンバーに加えるなど体制を強化しています。また、プロダクト作りも一人ではできないので、現在協力してくださっている化学メーカーや製薬会社や町工場と一緒に開発を進めていきたいです。

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地域格差無く多くの人に最先端医療を届けるには、起業がベストな手段だった

 岡本さんのこれまでのキャリアを教えてください。

岡本 父が歯科医院を複数経営する経営者でしたが、興味は無く、兄が継ぐものだと思っていました。最初のキャリアもアパレル業界なんです。しかし兄が継げなくなったため、父から直接「継いでくれ」と頼まれて。必死に勉強して歯学部に入りました。ただ、途中で会社が倒産してしまって……。奨学金を取ってなんとか学費と生活費を賄いました。卒業後は、口腔外科や麻酔科で勤務したり病棟院長を務めたり、デザイナーのような仕事もしたりと、マルチプレーヤーとして働いてきました。

 安定したキャリアを捨てて起業したいと思ったのはどうしてですか。

岡本 順調にキャリアを積んできましたし、尊敬できる人もいて安定した環境でした。ただ、やはり都市と地方の医療格差や教育格差の問題を見過ごせなかったんです。僕が地方に歯科医院を開業して最先端の医療を提供する選択肢もありますが、それだと診療できる患者数がどうしても限られてしまいます。より広く、多くの人に最先端医療を届けるためには起業がベストな手段でした。それに加えて、“もっとクリエイティブな仕事がしたい”という欲求が自分の中にありました。開業ではなく起業を理由に今の職場を辞めるのは僕が初めてだそうです(笑)

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プロダクトの開発やスケールは一人ではできない、だからこそパートナー選びは大切

 他社と協力してプロダクト開発を進めているそうですが、企業様とはどこで出会ったのですか?

岡本 「Plug and Play Japan」のプログラムでファイナリストに選んでいただいたときに、開発責任者の方から「口腔領域のプロダクト開発を考えていたから、一緒にやれたらうれしいです」と声を掛けていただきました。食事などをご一緒する中で話が進み、社内でプロジェクトチームを作っていただくなど協力体制を整えていただいて、ありがたい限りです。

 信頼できる開発パートナーを見つけられたのですね。

岡本 はい。独自技術を持った大学発スタートアップは特に、信頼できてともに開発を進めてくれるパートナーを慎重に選ばなければならないと思います。スタートアップ初期はどうしても大波に飲み込まれて失敗しやすいものです。僕も毎月、アドバイザーのような存在の方とお話しているのですが、会社の戦略や方向性を見て客観的にアドバイスをくれるような存在を見つけておくことは非常に大事だと感じています。

 最後に、起業志望の方に向けたアドバイスをお願いします。

岡本 キラキラした部分に憧れて、「起業家かっこいい」「スタートアップを立ち上げた肩書が欲しい」といった理由だけで起業することは絶対におすすめしません。なぜなら、今の100倍はしんどいからです。僕は、「既存を疑い、挑戦し続けることに意味がある。」という考えですが、周りを見ると一人勝ちしたい人が多いですし、食い尽くされた、食い合いの世界だなと感じています。いばらの道だからこそ、自分の実現したいことを貫き通す胆力は絶対に必要だと思います。

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ライター / 倉本 祐美加

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