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INTERVIEW

香り空間を創るスタートアップが、新型コロナウィルスに直面して下した決断とは

株式会社SceneryScent
代表取締役 郡 香苗

    舞台やイベントを支える演出の一つに“香り”の演出があることをご存知でしょうか。株式会社SceneryScentは、エンターテインメント業界を中心に香りの演出を手掛けており、香りの力で舞台やイベントをさらに魅力的なものにしています。しかし、2020年は新型コロナウイルスの影響で多くの舞台やイベントの中止・延期がすでに決まってしまっているなど、現在業界は厳しい状況です。そんな状況下でも新しいチャレンジをすることに決めた株式会社SceneryScentの代表取締役・郡 香苗さんに、起業の経緯や今後のビジョンについて伺いました。

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    特殊効果の一つとして“香りの演出”を手掛ける

     まずは事業内容について教えてください。

     エンターテインメント業界を中心に、舞台やイベントの演出における特殊効果の一つとして香りを使う、香りの空間演出を行っています。お芝居の場合は、シーンと同じ匂いが漂ってくることでお客様がお芝居の世界に入り込みやすくなります。また、香りは一定時間持続するものなので、ミュージカルのクライマックスシーンで飛ばす紙吹雪に香りを付けるなど他の特殊効果と組み合わせることで、お客様が家に帰った後も「香りを嗅ぐとミュージカルの感動を思い出す」といった効果も生むことができるんです。

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     “香りの演出”は珍しい事業ですが、どうしてこの事業を始めようと思ったんですか?

     もともと、アロマセラピストをしていました。当時、子どもと一緒にジャズダンスを習っていたスクールが大規模な自主公演を開いていて。あるとき、デザイン・クリエイティブセンター神戸のこけら落とし公演をそのスクールで行うことになり、先生から「照明・映像・音楽・ダンス以外に、五感で感じられる香りが舞台にあるといいのですが、作ることはできますか?」と相談されました。「香りは作れても、大きな会場で香りを拡散する機械が無いんです」と伝えたところ、舞台演出の特殊効果を担当する会社を紹介していただいて。協力して、こけら落とし公演で香りの演出を行うことができました。その後も特殊効果の会社さんと一緒にお仕事をさせていただく中で、香りの演出のニーズが多いと感じて、起業を決意したのです。

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    自粛が解かれた後、安全に公演が行われる手助けをするために

     エンターテインメント業界は、新型コロナウイルスによって大きな打撃も受けていると思います。

     たとえばアーティストさんなら、リアルなライブができなくてもWeb配信に切り替えるなど、いろんな形で発信できる術があると思います。けれど、照明・音響・ホール管理の方々や特殊効果の会社さんは、「半年先までスケジュールが真っ白になっている」という方が多くて。とはいえ、命を守るための自粛が今は一番大事なので、コロナが収まってきたときにどう動くべきかをずっと考えていました。

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     そんな状況下で今注力していることはありますか?

     公演が再開されたときに、香り演出に使用している機器で除菌剤を噴霧することができれば、お客様も舞台に関わる方も安心できるのではないかと思い、取り組みを始めています。香りは、出すことは簡単でも、その香りが不要なシーンに移ったときに瞬時に消すことは難しいんです。そのため、香りを素早く消すための最後の砦として噴霧できるようにと、消臭剤を常備していました。その消臭剤こそが、今注目されている次亜塩素酸水なんです。除菌剤の噴霧は機器本来の使い方ではないので迷いましたが、専門家の方に伺って次亜塩素酸水の効果を実証したデータなども集めたうえで、「安全な上演に役立てるなら」という思いで取り扱うことにしました。

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    起業して、チームで仕事をする楽しさとやりがいを知った

     独立や起業は昔からの夢だったんですか?

     いえ。小学生の頃は香り玉、中学生の頃は香水のボトルを集めるなど香りはずっと好きだったのですが、もともとはIT系の企業に勤めていました。そこで産業カウンセラーのような仕事を任されることになって勉強する中で、心理学と香りを組み合わせて心を癒すアロマセラピストという職業を知って興味を持ったんです。仕事や子育てと両立しながらアロマセラピストの資格を取ったのですが、予想以上のお金が掛かってしまって。「これは趣味で終わらせてはいけない」という必死の思いから独立・起業という生き方を選んでいったように思います。

     アロマセラピストと香りの演出のお仕事では、どんな違いがありますか?

     アロマセラピストの施術は1対1で行うものです。一方で香りの演出は、舞台監督・キャスト・照明など各分野のプロとともに力を合わせて一つの舞台作品を作っていくもの。なので、チームで仕事をする楽しさややりがいを、ものすごく感じています。また、香りの演出は“映える”ものではないので、お客様の喜びや驚きをその場で見て取ることは難しいのですが、上演後にお客様がSNSで香りの演出についての感想を述べてくれていたり、毎年依頼してくださるクライアントさんから、「この香り、懐かしい!待ってたよ!」と言われたりしたときはうれしいですね。

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    将来は、“困っている人を助ける”事業をしたい

     現時点で目指している、会社の方向性やビジョンを教えていただけますか。

     去年から注力してきたことの一つが、AIが二次元キャラクターの香りを作る、バーチャルフレグランスです。ファンがそのキャラクターに対して持っている印象などの情報をインターネット上から拾い、テキストマイニングを行った上で香りを開発することができたら、イメージに近い香りを実現できるのではないかと思うからです。そういった、やりたいことがいくつかあるうえで、最終的な目標は嗅覚の再生医療に携わることです。この仕事を始めて、嗅覚異常を抱えている方が多くいることを知りましたし、私も以前8ヶ月間嗅覚を失くしたことがあって、匂いを感じない生活の大変さを実感しました。今は香りを作って提供する事業をしていますが、将来は香りの分野で困っている方を助けられる事業をしたいという思いが芽生えたので、嗅覚異常を患ってしまった方のためのリハビリ施設を作りたいという構想を持っています。

     これから起業しようとされている方にメッセージをお願いできますか。

     好きなことや得意なことで起業したいと思う方は多いですよね。そういった場合、チラシやHP作りなど、全部自分でやろうとしてしまうんです。でも、それでは絶対に事業が大きくならない。各分野のプロに頼むってすごく大事なことで、いろんな人と関わって、周りに期待されるからこそ頑張ろうと思えることもあります。自分の力で何とかしようとするのではなく、人の力を借りて、そのぶん自分にできるお礼をしながら事業を進めていってほしいです。

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    writer_kuramoto

    ライター

    倉本 祐美加

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