
ボードゲームで経営視点を体感!これまでの企業研修をひっくり返す、27歳経営者の原点
株式会社NEXERA
代表取締役 飛田 恭兵
歯科衛生士の数がぐんと増えているのに、どのクリニックも「歯科衛生士の採用が進まない」と嘆く。このいびつな状況は、クリニックが「毎日フルタイムで働ける歯科衛生士」を求めていたために引き起こされていました。歯科衛生士のシェアリングプラットフォームによって、この課題を解決しようとしているのが株式会社HANOWAです。歯科衛生士の柔軟な働き方を後押しするHANOWAの代表取締役・新井さんに、事業を続けてきた中で迎えた転機や今後のビジョン、起業志望の方へのメッセージなどを伺いました。
ー まずは事業内容について教えてください。
新井 歯科医院と歯科衛生士のマッチングプラットフォーム「HANOWA」を運営しています。HANOWAに登録した歯科衛生士の方は、働きたいときにだけ、歯科衛生士を募集している近隣の歯科医院で働くことができます。それぞれの歯科医院で過去に働いた歯科衛生士のレビューを閲覧できることや、時給を自分で決められることも特徴です。
新井 歯科医院向けのコンサルティングを行う中で、どのクリニックも「患者さんはたくさんいるし、チェアも余っている。だけど歯科衛生士が足りない」とお話しされていました。しかし、この25年間で働く歯科衛生士は3倍ほど増えていて。唯一違ったのは、25年前は20代の歯科衛生士が70%を占めていたけれど現在は30代以上が75%だったこと。子育て真っ最中の方も多いので、クリニックが求める「週5日8時間勤務」は難しく、採用が進まなかったんですね。そして、フルタイム勤務が難しいという理由もあり、歯科衛生士の有資格者の半数以上の方が離職してしまっていました。でも、世の中にUberやAirbnbなども出てきたタイミングだったので、「1人で8時間働いてもらうのは難しくても、2人で4時間ずつ働いてもらうことなら可能だろう」と、歯科衛生士の空いた時間を共有するシェアリングプラットフォームを思い付いたんです。
ー 事業を行ってきて、転機となったことはありますか?
新井 今年の春先に、新型コロナウイルスの影響でクリニックとの商談の多くが止まってしまったんです。そんな中でも歯科衛生士の登録数は順調に伸びていたので、「働きたいけど仕事が無い」という人がプラットフォーム上に溢れてしまいました。それまでは、HANOWAのサービスを難なく使うことのできる、ITリテラシーの高い院長先生のいるクリニックを中心に導入を進めてきました。しかし、歯科衛生士に仕事を提供できないのは本末転倒ですよね。だからこそ、間口を広げていろんなクリニックに使っていただくための工夫を始めました。
ー 具体的にはどのような工夫をされたのですか?
新井 もともとは登録料をいただいてからアカウントを発行していたのですが、HANOWAを通じて出会った歯科衛生士の初回勤務終了時に登録料が発生する仕組みに変えて、導入のハードルを下げました。また、ITにあまり明るくなくサービスを使うことにハードルを感じる院長先生の代わりに、電話でヒアリングをしながらプロフィール作成や募集日時の入力を行ったんです。このように導入ハードルを下げたり、アナログで地道な支援を続けていくと、クリニックの登録数が増えて、プラットフォーム上のマッチングがスムーズになってきました。
ー 今はどんなことに注力していますか?
新井 ひとつは、UI・UXの改善です。個別メッセージだけでなく、地域ごとの掲示板やタイムラインのようなオープンな環境でもクリニックと歯科衛生士がやりとりできるようにすることで、サービスを活性化していけたらと思います。もうひとつは、カスタマーサクセスを担うメンバーの採用です。クリニックへの運用支援を行って改めて実感しましたが、よく言われる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」はスマートに実現できるものじゃありません。人が手を動かして行うアナログな支援を長期間やり続けることで、やっと実現できるものなんだと感じました。だからこそ、クリニック側に寄り添って、HANOWAを活用してもらうためのサポートを行う人材は今後増やしていきたいですね。
ー 将来のビジョンを教えてください。
新井 「口腔ケアによって歯周病を予防すれば、認知症や糖尿病を防げる」というデータも出てきているなど、歯科衛生士の仕事は人の健康を支える尊い仕事であるにもかかわらず、まだまだ過少評価されているんです。また、患者さんへ定期的に口腔ケアを受けてもらうためのリピートを促す仕組みも不十分です。たとえば、クリニックからではなく口腔ケアを担当してくれた歯科衛生士から、「●●さん、この前はありがとうございました。特に右上が磨きにくいとおっしゃっておられましたが、その後どうですか?」といったハガキやメールが届いた方が「また通おう」と思えますよね。予防歯科の必要性を伝えつつ、患者ー歯科衛生士間でのCRMの仕組みを整えることで、歯科業界の市場規模を広げたいです。
ー 新井さんのこれまでのキャリアを教えてください。
新井 Webマーケティングの会社に勤めた後、2015年からWebマーケティングコンサルタントとして個人で仕事を始めました。 とある歯科医院のインプラントのWebマーケティングをお手伝いしたのをきっかけに、気付けば歯科医院のクライアントが増え、経営全般のコンサルティングをするようになり、その後HANOWAを起業したんです。小さい頃から会社経営をする親の姿を見てきたこともあり、サラリーマンとして働き続けるよりも自然な流れで独立や起業に至りました。
ー ともに働くメンバーはどのようにして集めましたか?
新井 知人の紹介で飲みに行って意気投合したり、SNSのDMでオファーしたり、コーヒーミーティングで出会ったりとさまざまです。SNSで知り合った動画編集担当のメンバーは、パラレルキャリアを歩んでいる歯科衛生士です。今もHANOWAを使って歯科衛生士として働きつつ、動画編集に力を貸してくれています。
ー 関西で起業したのはどうしてですか?
新井 大阪生まれ・大阪育ちだからです。VCの数はどうしても東京に比べて少ないため、資金調達は東京で行いました。ただ大阪にはスタートアップシーンを盛り上げてくれている方々がいるので、彼らと繋がりができると、都内を歩き回るより早くいいVCと出会いやすいかもしれません。東京と比較して固定費が安いのも、やはり魅力ですよね。
ー 最後に、これから関西で起業をしようとしている方に向けてメッセージをお願いします。
新井 掃除機でおなじみのダイソンの創業者である、ジェームズ・ダイソンの言葉に「私にできる唯一のアドバイスは、『他人のアドバイスは聞くな』ということです」というものがあって、ものすごく共感しました。新しいことに挑戦しているとき、自分より先を行っている人はいません。周りのアドバイスに耳を傾けるよりも、自分を信じて、目の前にある「負」をコツコツ解消していくことに力を注いでください。
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ライター / 倉本 祐美加