
「アーティストが夢を諦めない社会に。」アーティストとファンの新しい関係性を作る、異色キャリアの起業家
株式会社IDEABLE WORKS
代表取締役 寺本 大修
憧れるけれどハードルの高かった“絵画のある暮らし”。しかし、京都発のスタートアップ・株式会社Casieが定額制絵画レンタルサービスを開始したことで、絵画は“借りる”ことのできるものになり、アートを手軽に楽しめる人が増えています。そんなCasieを、代表の藤本さんとともに共同創業したのが、取締役の清水宏輔さんです。あえて明確な役割は持たずに各チームに幅広く関わっているという清水さんに、大切にしているマインドセットやスタートアップの開発部門が意識しておきたいこと、ビジョンなどを伺いました。
ー まずは、現在の役割と担当している業務内容を教えてください。
清水 実は、唯一僕だけが明確な担当を持っていません。というのも、会社のステージごとに注力していくポイントが変わるので、そのときどきで強化すべきチームに入っているんです。数か月前まではグロースチームに入って、ユーザーグロースのための施策を繰り返していました。トライ&エラーの末にある程度戦略が決まり仕組みが出来上がったら、次は絵を集めるアーティストサクセスチームに加わって、継続的に絵を集め続ける仕組みをつくっています。次はロジチームに加わって、ユーザーの絵の開封~飾るまでのサポートを行う仕組みや手軽に返却できる仕組みの構築に携わる予定です。"何でも屋"だからこそ、全体最適を考えることのできるポジションだと思っています。
ー 清水さんは、前職で同僚であった藤本さんとともに共同創業をされておられます。どのようなキャリアパスで現職に至ったのでしょうか。
清水 前職のコンサルティングファームでWebマーケティング領域のご支援に多く携わった後、東南アジアで事業を立ち上げる経験もしました。帰国後、藤本と話す中で「二人で何かやりたいね」という話になって、彼の口から出てきたのが絵画のレンタルというアイデアでした。自分も絵画に興味はあるけれど「まだハードルが高くて、音楽のようにカジュアルに生活には溶け込んでいないな」と感じていましたし、藤本のお父さんが画家だったエピソードを聞いて、この事業なら人生を賭けてやってみる価値がありそうだと思ったんです。前職で魅力的な経営者の方とお話しする機会が多かったことや、まだ世の中に無いものをつくることに面白さを感じて、このようなキャリアを歩んできました。
清水 まったくタイプが違いますね。藤本はすごく直感的で、僕は理詰めですから。だからこそ、役割分担が自然とできるんだと思います。藤本はビジネスの可能性やCasieのビジョンを伝えて周りを巻き込んでいくことが得意です。一方で僕は、スケジューリングをして現実的な成長路線を整えていくことが得意。彼がフラッグを立てて、最適なルートや方法は僕が考えるという感じですね。たぶん、僕が代表だったら目標設定も手堅すぎて面白くないと思います(笑)。だからこそ藤本には、小さくまとまらずに、周りをあっと驚かせるビジョンやアイデアを発信し続けてもらいたいですね。
ー プロダクトを作る際、特にこだわったポイントを教えてください。
清水 ユーザーが絵画を選ぶ際に「選べる要素」と「選ばなくてもいい要素」のどちらも取り入れて調和を取ることです。Casieのユーザーのほとんどは初めて絵を飾る人です。いきなり数千枚の絵から1枚を選んでもらおうとすると、ハードルが高くて途中で離脱されてしまいます。だから、“選ばなくても1枚目が届く”仕組みにするべきなのですが、とはいえ何が届くかがまったくわからないと不安ですよね。だから、手軽に試せる「アート診断」というコンテンツを作って、ユーザーの好みに合う絵を届けるようにしました。ここに至るまでは、とにかくPDCAサイクルの連続でした。注文は週末に偏るので、金曜までに実装して金曜の夕方から月曜までデータを取得、月曜にデータを見て振り返りを行い次の手を打つということを、グロースチームと開発チームでミーティングを行いながら毎週繰り返したんです。これに関してもフェーズが変わるともっと良い解が見えてくると思うので、今お話した内容はあくまでも現段階においての最適な解です。
オフィスに飾られている、清水さんがお気に入りの絵画
ー チーム間を超えての協力体制がしっかり築けているのですね。
清水 僕自身も以前は開発業務に携わっていたのでわかるのですが、一般的に開発側はどうしても作ることそのものにベクトルが向きがちだと思います。けれグロースを考えてマーケティングを考え実行するチームにとっては、スケジュール通りにコンテンツを出して効果検証を行うことが目的なんですよね。だから大事なことは「ユーザーにとって必要なものをつくる」という意識をしっかりとチームを跨いで共有しておくことです。幸運なことにうちの場合はマーケ側だけじゃなく、開発側も綺麗なコードを書くことよりもプロダクトのグロースを大事にしてくれているので上手く回っているのかなと思います。
ー スタートアップの開発メンバーを集める際には、どんなことを意識しておくべきだと思いますか?
清水 スタートアップはアジャイルで開発していくしかないですし、高速でPDCAサイクルを回していく必要があります。そのため、エンジニアとは同じ場所で働き、すぐに連携が取れる体制にしておくことがベストだと思います。また、多少コストが掛かっても投資だと思って、初期からフルスタックエンジニアを複数人、チームに加えることをおすすめします。他に当社が採用時に意識しているのは、ユーザーファーストの意識にも通じますが、“自分がMVPを取ることよりも、チームが勝つことを一番に考えて働ける方”でしょうか。どのポジションにも共通しますが、スタートアップ側にとっての正社員採用も、メンバー側にとってのスタートアップへの転職もどちらもリスクが高いですよね。だからこそ、まずは副業やプロジェクト単位での受託という形で一緒に働いてみる方が互いにとっていいのではと思います。
ー プロダクトやサービス全体の責任者として大切にしているマインドセットを教えてください。
清水 コンフォートゾーンにとどまらないようにすることは意識しています。トップの成長無しで、企業は成長しませんから。過去の成功パターンにとらわれず、常にもっと最適な方法やいい技術は無いかを探していますし、他企業のCTOの方とエンジニアが情報交換できる場なども定期的に設けてチームメンバーにも成長を促しています。もう一つは、自分のポジションや成果にこだわらないことです。いつまでも「その話は俺を通してね」だとスケールしません。今は一応僕が全般を見ていますが、メンバーが育ち責任者ポジションになって自分の仕事を取ってくれるのが理想です。既にプロダクトマネジメントに関しては、別のメンバーで僕より深く考えているメンバーもいるので近いうちにPMのポジションは奪われると思います(笑)
ー 最後に、今後の目標を教えてください。
清水 Casieとしては、日本の一般家庭に絵が飾られている風景が当たり前になればいいなと思います。絵画レンタルが普及したら、次は絵を購入できる場づくりもしたいですし、アーティストの方が自分の描きたい絵を描きながら生計を立てられるようにサポートする活動もしていきたいです。個人的な目標は特にありませんが、藤本が満足できるところまでCasieの事業を育てていきたいなとは思います。彼が思い描くものをつくっていくことが僕の目標なのかもしれません。むしろ藤本の目標を僕の目標と思わず、僕は僕の目標が別にあると言うくらいなら共同でやらず1人でやった方がいいと考えてます。だから、僕は藤本が目指すところを一緒に目指していきたいと思ってます。
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ライター / 倉本 祐美加